ところがある日のこと、髪長彦はいつもの通り、とある大木の根がたに腰を卸しながら、余念もなく笛を吹いていますと、たちまち自分の目の前へ、青い勾玉を沢山ぶらさげた、足の一本しかない大男が現れて、
「お前は仲々笛がうまいな。己はずっと昔から山奥の洞穴で、神代の夢ばかり見ていたが、お前が木を伐りに来始めてからは、その笛の音に誘われて、毎日面白い思をしていた。そこで今日はそのお礼に、ここまでわざわざ来たのだから、何でも好きなものを望むが好い。」と言いました。
 そこで木樵は、しばらく考えていましたが、
「私は犬が好きですから、どうか犬を一匹下さい。」と答えました。
 すると、大男は笑いながら、
「高が犬を一匹くれなどとは、お前も余っ程欲のない男だ。しかしその欲のないのも感心だから、ほかにはまたとないような不思議な犬をくれてやろう。こう言う己は、葛城山の足一つの神だ。」と言って、一声高く口笛を鳴らしますと、森の奥から一匹の白犬が、落葉を蹴立てて駈けて来ました。

 青侍は、年相応な上調子なもの言いをして、下唇を舐めながら、きょろきょろ、仕事場の中を見廻した。――竹藪を後にして建てた、藁葺きのあばら家だから、中は鼻がつかえるほど狭い。が、簾の外の往来が、目まぐるしく動くのに引換えて、ここでは、甕でも瓶子でも、皆赭ちゃけた土器の肌をのどかな春風に吹かせながら、百年も昔からそうしていたように、ひっそりかんと静まっている。どうやらこの家の棟ばかりは、燕さえも巣を食わないらしい。……
 翁が返事をしないので、青侍はまた語を継いだ。
「お爺さんなんぞも、この年までには、随分いろんな事を見たり聞いたりしたろうね。どうだい。観音様は、ほんとうに運を授けて下さるものかね。」
「左様でございます。昔は折々、そんな事もあったように聞いて居りますが。」
「どんな事があったね。」
「どんな事と云って、そう一口には申せませんがな。――しかし、貴方がたは、そんな話をお聞きなすっても、格別面白くもございますまい。」

すると婆さんの真名娘が私かにこの稚児に想ひを寄せ、稚児の身代りになつて死んでしまふ、それから稚児は観世音菩薩と現れ、婆さんに因果応報を教へる、この婆さんの身を投げて死んだ池は未だに浅草寺の境内に「姥の池」となつて残つてゐる、――大体かう云ふ浄瑠璃である。僕は少時国芳の浮世絵にこの話の書いたのを見てゐたから、「吉原八景」だの「黒髪」だのよりも「石の枕」に興味を感じてゐた。それからその又国芳の浮世絵は観世音菩薩の衣紋などに西洋画風の描法を応用してゐたのも覚えてゐる。
 僕はその後槐の若木を見、そのどこか図案的な枝葉を如何にも観世音菩薩の出現などにふさはしいと思つたものである。が、四五年前に北京に遊び、のべつに槐ばかり見ることになつたら、いつか詩趣とも云ふべきものを感じないやうになつてしまつた。唯青い槐の実の莢だけは未だに風流だと思つてゐる。

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